ヤブマメ (マメ科 ヤブマメ属)
薮豆 Amphicarpaea bracteata subsp. edgeworthii var. japonica


ねいの里へ至る道沿いや林縁などで見られるつる性の1年草です。葉は3出複葉で互生します。
日本全土に分布していますが、あまりポピュラーではないです。

花は9月から10月。花の色は、この写真のような青色から赤紫までいろいろあります。
花の後豆果には種子が3個から5個です。

この植物は、地上に普通の花(開放花)と閉鎖花を、さらに地中に閉鎖花をつけるという変わり者です。
つまり3種類の花を咲かせるのです。地上の花は中に3個程度の小さな種子が入った豆果を作りますが、
地下茎につく閉鎖花は大きな種子を1個だけつけるのです。
どうして、こんな手の込んだ戦略をとることになったのでしょうか。

地中につく閉鎖花は、大きな豆で、種子散布は行われません。親植物と同じところでいいのでしょうか。
いや、いや。大丈夫なのです。だって、ヤブマメは1年草ですから、来年には親はもういないのです。
そして、この種子は親とほぼ同じ遺伝子を持つわけですから、同じ場所での繁栄はまず間違いないのです。
しかも豆も大きくて栄養分がたっぷりですので、強い競争力をもっているといえます。

他方、地上の豆果はどうでしょう。こちらは熟すと弾けて、3、4mは種子をはじき出すのです。
つまり分布域を広げるという役割を持っているのです。実際こちらの種子は硬く、乾燥にも強いので、新天地を求めるのに適しているのです。
さらに、このとき親と同じ遺伝子を持つものと、そうではないものの両方があって、様々な状況に対応できるという戦略だと思われるのです。
これは、ヤブマメが明るいところと暗いところが混在する、林縁に生活域を持つ植物であることと大きなかかわりがあるのでしょう。

ところでこれと関連して、かつてのねいの里のように、その生活域が暗くなり始めるとヤブマメはどうなるのでしょうか。
実はどう考えても合理的ではない「ペシミスティックな戦略」をとると言われています。
まず、地上の開放花を、次いで地上の閉鎖花が急速に減少してくるのです。そして地下の閉鎖花だけは何とか確保しようとするのです。
暗くなったら、新天地を求めることのできる地上花を優先すると思いきや、そうではないので、このように言われているようです。

しかし、見方を変えてみると、人の手が定期的に入った里山では、一時的に暗くなった林縁も、いずれ刈られて明るくなることを踏まえた戦略なのかもしれません。一年草の植物がどうしてそんな将来のことまで分かるのでしょうか。ここが、また植物の不思議の一つなのかもしれません。



2002年9月16日
  開放花の様子



2004年11月20日 葉の様子




2004年11月20日 開放花の豆果



2004年11月20日 熟した豆果を開いてみると



2004年11月20日 地中を掘ってみると大きな豆果がありました。
右はくっついている果。左は掘っているときに取れた果です。





2004年11月20日 取れていた果を綺麗に洗いました。





2004年11月20日 ちょっとボケていますが、左が開放花の種子で、右が地中の閉鎖花の果です。
果の中の種子はちょっとだけ小さくなるだけですので、かなり大きさが違うのが分かります。





2004年11月20日 果の中の種子を取り出しました。この種子は食べられます。