北陸地方の気候条件に適合した常緑芝の維持管理
オーバーシーディングから、共生型の管理へ移行

平成12年10月


注)      これは、財団法人富山県民福祉公園の芝生担当の上原が、
日本芝草学会2000年秋季福井大会のシンポジウムに提供した原稿を、
HP用に一部、訂正・加筆したものです
  
 

記事の転載、ご意見・ご質問など

1)概要

 平成7年6月、富山県陸上競技場では、コウライシバをベースとしたウインターオーバーシーディング(以下「OS」)で、初めて行なったトランジッションがうまく行きませんでした。本業務の目的は、その失敗で衰退したコウライシバのグラウンドを、平成12年10月に開催される2000年富山国体までに改修し、大会時にベストコンディションを提供することでした。

 ベースをバーミューダグラス(以下「BG」)に穏やかに草種転換し、暖地型と寒地型を共生させる管理へと移行させ、今秋、国体を迎えようとしています。(2000/09記載)

2)背景
 北陸地方での芝生管理の特徴の一つに、OSにおける、コウライシバの取り扱いの困難性が挙げられます。平成4年、まだJリーグやOS導入の考え方がなかった頃、富山県陸上競技場(富山市南中田)のグラウンドは、平成12年の国体開催を念頭にコウライシバで施工されました。平成6年6月、富山県で最初のJリーグ公式戦が、国体に先駆けて開催されました。その後も、継続的な誘致が行なわれました。Jリーグが定める「ピッチは常緑であること」との条件を満たすため、平成6年9月、十分な準備が整わないまま、公共施
設としては県内初のOSが導入されました。しかし、
@ 耐暑性に優れるペレニアルライグラスの品種「APM」を採用したこと
A トランジッション実施を、6月下旬に開催されたJリーグ公式戦を待ったこと
等が原因でコウライシバが衰退し、面積で30%程度の裸地を生じさせる事態を生じました。

失敗の要因などは、次表1のとおりです。オーバーシードしたAPMがOSに向かなかったということが大きいのですが、根本的な問題として、温量指数などで表される地域的・気候的な問題がありました。

 国体の主会場にふさわしいグラウンドとして、失敗は二度と許されません。

北陸地方の気候条件に適した新たな芝生管理技術を早急に開発・整備する改修プログラムが求められました。

3)改修プログラム
 植物の生育環境としての上記の要因とは別に、社会的な課題として、
@ Jリーグの積極誘致で、OSを中止することはできない
A 日常的な利用を優先するため、長期間のグラウンド閉鎖は困難である
B ランニングコストの縮減が並行して求められていた
等の課題がありました。加えて、
C 通常のOSによる秋季の播種・養生時期が国体とバッティングする
という、非常に大きな問題がありました。
 これらの要因と課題について、改修プログラムの骨子を次の2項と定めました。
@ 国体には、暖地型と寒地型の「共生管理」で臨む
A それへ移行する前に、寒地型と競合することで共生管理に不向きなコウライシバをBGに置き換えておく。

 共生管理は、従来のOSに伴うトランジッションを行ないません。寒地型を無理やり衰退させるのではなく、暖地型と寒地型を夏季に共存させる手法です。それには、ベースのコウライシバを、伸長速度が速く寒地型との競合に有利なBGに置き換えることが必要でした。ただ、既存のコウライシバを剥ぎ取って、BGを新たに植栽する工法は、利用を長期間にわたって停止しなければならないため採用できません。暖地型の「穏やかな草種転換」を検討し、暖地型との競合の少ない寒地型の導入要件等を研究しました。
(1)穏やかな草種転換工事
 これは、コウライシバを徐々に衰退させながら、その上からBGを植え込み、勢力を逆転させる工法です。コアリングした孔にBGの苗を、活着率を考慮して人力で丁寧に刺し植えする工法を採りました。
 コウライシバをBGに置き換えた事例を全国的に調査しました。その上で、神戸ユニバー記念競技場とトヨタ自動車鞄進研修センターグラウンド(愛知県日進町)に実績を見つけ勉強してきました。また、滋賀県名神八日市カントリークラブで、暖地型との競合の少ない寒地型の導入手法を学んできました。これらを検討した結果、BGが全面を覆い尽くすために要する期間を2年間と見込み、草種転換を平成8〜9年と予定しました。
(2)短期施工のシートパイプ工法
 平成10年度に、陸上競技場の第一種公認の更新に伴う施設の改修工事が予定されていました。この期間中に大型機械の搬入を要する排水機能の回復工事を実施することとし、無開削・短期施工が可能なシートパイプ工法を採用しました。
 通常の暗渠改修では、暗渠に沿って芝生を剥ぎ取ります。掘削して新しい暗渠管を設置後に埋戻し、芝生を復旧します。通常は、そのシーズンは養生のため供用できません。
 シートパイプ工法では、プラスチック製の長尺シートを丸めながらパイプ状にします。鉄製の幅30センチ程の縦刃の下に、パイプよりやや大きめの鋳鉄製の弾丸状のガイドを溶接したものを準備します。パイプの先端を弾丸の後尾に固定します。牽引機械(ブルドーザ)で、縦刃・弾丸・パイプを地中に切り込みながら埋め込んで、パイプを刃の入れ口から引っ張り込んでいきます。2週間ほどのメイン作業が終わり、填圧などが終了すれば、翌日からでもグラウンドは使用可能となります。
(3)品種選定と共生管理への移行時期
 寒地型の品種は、ケンタッキーブルーグラスを主体に、チューイングフェスキューとの混播としました。共生管理においてはある程度、暖地型の衰退は避けられないことはご承知のとおりです。BGをできるだけ国体時に温存しておきたかったため、共生管理への移行時期を国体前年の平成11年と決定しました。

(4)改修プログラムのスケジュール
 平成4年に造成された富山県陸上競技場のグラウンドは、それまでは、暖地型芝草(コウライシバ)のみを扱って管理していました。

 平成6年にJリーグの誘致で急遽OSを開始し、翌年の平成7年にはトランジッションに失敗しました。関係各位のご指導を賜りながら、その5年後の国体に照準を合わせて改修を進めた今回のプログラムの概要は、表3のとおりです。